幸福の欠片.12
SIDE:千歳千里 2008.由梨ゆかり
「なぁ…白石、もし自分が弱み握られて、それをネタに脅されたらどうすると?」
「何、千歳イジメにあってんのか?」
午前の授業の終わりを告げるベルの音と同時に、俺は午後の授業はきちんと受けると約束してオサムちゃんと別れた。
その後昼飯にパンでも買おうと立ち寄った購買で偶然出会った白石と昼を一緒にする事になったので、なんとなく白石だったらどうするのだろうと思い話題を振ってみたのだが、投げ掛けた突拍子の無い質問に白石は一瞬動きを止めて、その後真剣な顔で俺の事を覗き込んできた。
「………例え話たい」
まさか本当の事が言えるはずもなく、少し言葉に詰まりながらも誤魔化す。
白石は俺の焦りに気付く様子もなく考えこむように片手を顎にあて、首を捻った。
「せやなぁ…俺、握られるような弱みなんか無いし…」
「…………」
「やられたら3倍にしてやりかえす主義やしなぁ…」
白石らしい答えに俺は完全に質問する相手を間違えたと思いながらさっき買ったばかりのパンに噛り付く。
「けど、世の中にはそれが出来んヤツも仰山おる、せやから弱みを握った事でイジメっちゅうもんが成り立つ訳やけどな」
白石の最もな言葉に俺は黙って頷く。
「俺に協力出来る事があったらいつでも言いや」
「……?」
「助けたいんやろ?その子の事」
「……うん」
真実を隠してたとえ話にするつもりがどうやらバレバレだったようだ。
白石の勘の良さを相手に誤魔化しながら話すのは至難の業らしい。
「誰にも言わないって…約束しとるばい」
「………そっか…まぁそれなら俺も変な詮索はやめとくけど、ホンマ何かあったら言いや?」
「うん……」
「あ、そうや、一言だけアドバイスしとくわ」
「………?」
目には目を。
弱みを握られているのなら、こっちも相手の弱みを握ればええんや。
そう言った白石の作り笑いはぞっとする程綺麗で、この世の何よりも恐ろしく見えた。
「まぁ、こればっかりは相手にもそれ相応の弱みが無いとあかんけど…」
なかなか簡単にはいかんやろな。
そう付け足して白石は言った。
「弱み……」
オサムちゃんをあいつらから救うために俺が出来ること。
あいつらの弱みを握ること。
人を脅す事の出来る様な弱みだなんて、言われてもわかる訳がない。
普通であればそうだが、あいつらに関しては例外だった。
俺は知っている。
あいつらを脅せる唯一にして最大の弱みを。
後はそれを上手く証拠に残せるか、だ。
「白石…ありがとう、やってみるばい」
「……助けてやれるとええな、その子」
「うん……」
午後からはオサムちゃんに言われた通り一応授業には出たものの、頭の中ではどうやってあいつらの弱みを証拠として押さえるか。
それでいっぱいだった。
弱みを確保する方法と、それを使っての駆け引きの方法。
それを自分の考え付く限り頭を振り絞って考えているといつもは長くて憂鬱な授業もあっという間に終わり、気付けば放課後を迎えるチャイムが校内に響いていた。
授業が終わり簡単に荷物をまとめカバンを手にし、部室へ向かう時も、自分用に割り振られたロッカーの前で着替える時も、コートにでてアップをする時も常に頭の隅ではその事ばかり考えていた。
「ボーっとしとったら怪我するで」
アップをすませて一息ついた俺にかけられた言葉。
その言葉にハッとして顔を上げるとそこには大好きな人の顔。
頭の片隅で他所事を考えながらも、周りの人には気付かれる事のない位普通には振舞っているつもりだったのだが、どうやらこの顧問には見透かされていたらしい。
「…別にボーっとなんかしとらんたい」
「そんな事言うて痛い目みても知らんでぇ、せや、ちゃんと午後から授業出たか?」
「うん」
「そっか、ちゃんと出たんやな、おりこうさんやな〜」
オサムちゃんはまるで小さい子供を褒める様な口調でそう言いながら、午前中屋上でやった事と同じように俺の頭を撫でた。
「………オサムちゃん、ひとつ教えて欲しい事があるばい」
「何や?」
「オサムちゃん、家にパソコン持っとると?」
「…家のはほとんど使こうとらんけど…まぁ、一応持っとるで。昔に買ったヤツやから型が古いしホコリ被ってるけどなぁ〜それがどしたんや?」
「オサムちゃんのパソコンのアドレス教えて欲しいばい」
「は?」
「…ダメとね?」
「いや、別にかまわんけど…俺滅多に家のパソコンなんか触らへんで?メールなら携帯ので…」
「パソコンのアドレスが知りたか」
「……送っても俺多分見んで?」
「うん、それでもよかよ」
「……意味分からんヤツやなー」
熊本ではパソコンでメールやりとりするのが流行っとんかぁ?とか何とか言いながらもオサムちゃんは自分の家のパソコンのアドレスを手にしていたノートの隅に書き、それを千切って渡してくれた。
「osamu.watanabe.19××@…って、オサムちゃん、ひねりも何もないアドレスたい…」
「ええやんか〜覚えやすいやろ?」
「うん…もう覚えたばい」
ただの文字の並びだけなのに。
それが好きな人の番号となっただけでこんなにも昂揚した気分になるのはなぜだろう。
俺はお礼を言い、もう覚えてしまったアドレスの書かれたメモを半分に折りたたみ、ズボンのポケットに突っ込んだ。
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